嶋本隆司 医師コラム
最新情報に基づいた抗がん剤治療(1)
2009年 8月18日
嶋本隆司 医師
非小細胞性肺がんの分子標的治療
非小細胞性肺がんの分子標的治療は、EGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサを皮切りに、2007年にはタルセバも承認されるなど、注目を集めている領域です。
●イレッサのベネフィット獲得の鍵は、遺伝子解析に基づく治療の個別化
2008年9月にスウェーデンのストックホルムで欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が開催され、肺がんのアジア共同第Ⅲ相試験(IPASS)の結果も発表されました。IPASSは、比較的、イレッサの効果が期待できる腺がんで、喫煙歴がほとんどないアジアの患者さんを対象にした国際共同臨床試験でした。ところが、イレッサと、従来のスタンダードな化学療法の治療成績の差は明確に表れませんでした。
2009年3月に名古屋で開催された日本臨床腫瘍学会学術集会において、「進行性非小細胞性肺がんの一次療法として、イレッサ単独投与群と、パクリタキセルとカルボプラチンとの併用化学療法を比較した汎アジアのランダム化第Ⅲ相試験の結果」が発表されました。この症例にエントリーされた609例のうち日本人は233例で、そのほとんどがEGFRの遺伝子変異を調べています。その結果、遺伝子変異がある人が全体の約6割を占めていました。この人たちにはイレッサのベネフィット(恩恵)が得られることが明確に証明されました。しかし、EGFRの遺伝子変異のない約4割の人は、イレッサよりも通常の化学療法のほうが優れた治療成績を残していました。
その点に着目すると、イレッサは「夢の薬」ではありませんが、遺伝子解析に基づく治療の個別化をきちんと行えば、ベネフィットの獲得が可能であることが、発売されて6~7年を経てわかってきたと言えます。ただし、EGFRの変異を調べる遺伝子検査は、現在、保険適用などの問題で日本以外の国で受けることが、実質的にできません。言い換えれば、日本の患者さんは、遺伝子検査による患者選別の恩恵を受けることができるのです。
この臨床試験から2つのことが言えます。1つは、イレッサのベネフィットがある人たちには、この薬を使用することが大切だということ。ただし、分子標的薬も単独では万能というわけではないので、免疫療法などとの併用でさらに効果を高めていくことが重要です。
その一方で、EGFRが陰性の人たちに関しては、依然として従来の抗がん剤の重要性が再確認されたとも言えるわけです。となると、比較的強い副作用のある治療を受けることになるので、抗がん剤の毒性を緩和させるオプションを用意する必要があります。そういう意味で、統合医療ビレッジでは、患者さん個々の副作用に応じたマネージメントを考えています。
「統合医療でがんに克」
2009年5月号
最新情報に基づいた抗がん剤治療(1)引用