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松島修司 医師コラム

Dr.松島の往診日記 第5話

2010年 1月 6日
松島修司 医師

潜在的治癒力を引き出す要因
「生きがい」を感じて変化した「患者さんの心」

 私は、東京・京都統合医療ビレッジで治療を行っていますが、月に何度か往診のため、地方の患者さんのお宅まで足を伸ばすことがあります。その帰路、ある湯地場に立ち寄った時湯煙に包まれたことがありました。このとき、私の脳裏にある患者さんのとのエピソードが浮かんできたのです。
 その患者さんは60歳代の男性で、リンパ腫を抱えていました。毎週火曜日に都内の大学病院でリツキサンを投与し、毎週金曜日に統合医療ビレッジで活性化リンパ球療法をしていました。
 当院では、院長の星野泰三医師と私が、この患者さんの治療に対する不安や不満の聞き役になっていました。その際、よく耳にしたのが、大学病院での治療法のことです。リンパ腫の治療は、抗がん剤のリツキサンとCHOP療法(B細胞性悪性リンパ腫に用いられる化学療法のレジメンの1つ)を併せたR‐CHOP療法が一般的です。しかし、CHOP療法は従来の4種類の抗がん剤を用いる化学療法。その副作用の強さから、患者さんはR‐CHOPを避けていました。それどころか、当初はほとんど副作用のない分子標的薬のリツキサンさえ拒んでいたほどです。私たちは患者さんを説得し、リンパ腫に対してリツキサンのみの治療もしてくれる大学病院を紹介しました。けれども、病院側は、リツキサンの単独投与を行いながら、奏効率が格段にアップするR‐CHOPを勧めていたそうです。ある意味、当然の判断かもしれませんが、患者さんは受け入れられなかったのでしょう。
 リツキサンと活性化リンパ球療法の併用が効を奏し、患者さんの頸部にできた腫瘍は少しずつ退縮していきました。それでも、毎週、自分が嫌悪感を抱いている治療法を勧められ、精神状態がまいっているようでした。
 ある週の金曜日、その患者さんは、初めて穏やかな表情を見せてくれました。訊けば、娘さんと一緒に山奥の秘湯に2泊3日で出かけ、森林浴・温泉浴を楽しんできたそうです。本人はこのとき「何かが突き抜けたような気持ちに包まれた」と言っていました。病気に対してはさまざまな治療法がありますが、それとは別に患者さんが「ある境地に達する」ということも、その人の潜在的な治癒力を引き出す要因なのかもしれません。そんなことを、湯煙の中で考えていました。