星野泰三 医師コラム
がんワクチンと腫瘍抗原 その1
2009年 8月11日
星野泰三 医師
がん細胞に対する免疫系の細胞が、ターゲットとして認識できる抗原。その存在によって「がんの免疫」は、はじめて成立します。この腫瘍抗原の発見は、免疫腫瘍学を大幅に進歩させました。
また、ワクチンによってウイルスを撃退するように、がんも同様に掃滅させることができないだろうか、という考えのもと、がんワクチンの開発が進められてきました。
その「がんワクチンと腫瘍抗原」の関係性を2回にわたり解説します。
●がんワクチンの来歴とポイント
実験的な腫瘍免疫学は、今世紀初頭より始まり、1940年代になってマウスが使用されるようになりました。そして、50年代に入りマウス実験は確立されていきます。
そのなかで、次のような実験が行われています。人工的に発がんさせたマウスに形成した腫瘍を切除し、同じマウスに再び植え付けても生着しませんでした。逆に、もともと発がんしていなかったマウスにその腫瘍を植え付けると、生着しました。その結果、1回がんになってその腫瘍を摘出したマウスの中には、がんワクチンが存在するのではないだろうか、と考えられるようになりました。
さらに研究が進むと、腫瘍組織の中には、がん特有の腫瘍抗原の存在が言われるようになっていきます。そして、がん細胞の〝旗印〟を見つけ、がんワクチンの開発に利用できないだろうか、という実験が重ねられていきます。こうして、がん細胞が持つ特異的な抗原などの〝旗印〟の発見により、特異的リンパ球や抗体によるがん細胞のみを攻撃させるがんワクチン療法が開発されました。
腫瘍抗原は「分化関連抗原」と「誘発抗原」に分類されます。前者は、胎児期に発現された特殊なタンパクが異常に増えた抗原。後者は、ウイルス・紫外線・化学物質・病原微生物。放射線などによって誘発されたがん細胞上にできる抗原。どちらの抗原にがんワクチンができやすいかと言えば、誘発抗原のほうだと考えられています。たとえば、子宮頸がんの主因であるヒトパピローマウイルス。米国ではそのワクチンが用いられようとしています。
ここで、免疫と予后を考えて見ます。胃がんなら胃がん、大腸がんなら大腸がんの中にリンパ球が浸潤していきます。そして、手術によって、患部がきれいに摘出できたとしても、がんが残っていたとしても、リンパ球がたくさん浸潤しているがんの患者さんのほうが、予后が良好であることがわかっています。換言すれば、リンパ球がほとんど浸潤していないがんは、免疫細胞を寄せ付けないということであり、ワクチン療法も効きにくく、後々の予后が悪いと言えます。
ですから、がんの組織中にリンパ球をきちんと浸潤させることは、再発防止や良好な予后と深い関係があります。その意味で、がんのワクチン療法の成果を上げるには、リンパ球を増強・活性させるリンパ球療法や、リンパ球療法の効果を後押しする温熱治療と組み合わせ、いかにがん組織の中にリンパ球を送り込むかが、大きなポイントとなるでしょう。
「統合医療でがんに克」
2009年6月号より引用